先日米山武義先生の講演会を聴講し、改めて口腔ケアの重要性を実感致しました。米山先生は特別養護老人ホームで口腔ケアを実践したところ、呼吸器・消化器疾患への罹患が減少したことに着目しました。実際、口腔ケアにより喉の細菌が減少したことを証明し、つまり体内に細菌が侵入する事を防ぐということがわかりました。
老人ホームで亡くなった方の3~4割は肺炎が原因です。なかでも誤嚥性肺炎の割合が多いそうです。
誤嚥性肺炎とは、本来は食道に送られるべき食べ物等が気管に入り、肺で細菌が繁殖して起きる炎症のことです。誤嚥性肺炎発症の原因は大きくわけて3つあります。一つ目は食事中の誤嚥。食事中に口腔内にあるものをうまく飲み込めず気管に入ってしまい、慢性的に食物を誤嚥し続けると口腔内にいた細菌が繁殖して肺炎につながります。二つ目は胃の内容物等の誤嚥。意識状態が悪く、吐きながら呼吸してしまった場合に起こる、急性の誤嚥性肺炎です。三つ目は就寝中に起こる誤嚥です。
特に年配の方は喉の筋肉が衰えるため、自覚なく起きることが多いです。
いずれも嚥下力の低下によるものが大きいと考えられます。サブスタンスPといわれる大脳から放出される嚥下反射をスムーズにする物質の分泌を促すことが大切で、サブスタンスPを分泌させるためには歯ブラシや手指で口腔の内外を刺激することが効果的です。そうすることにより、肺炎の大元である口腔内の細菌を減らすことにも繋がります。他にも舌の運動や歌を歌ったりと日常で簡単にできることも誤嚥性肺炎への予防となります。
最近では口腔機能が衰えると要介護リスクが上がり、死亡リスクは二倍になるという記事を目にしました。それは食事する筋肉が衰え栄養状態が偏るためです。
これらを踏まえ、口腔環境や機能が、たとえ直接的な原因でなくとも全身疾患や健康寿命に大きく影響していることを皆さんにも知って頂けたらと思います。
歯科医師 根本 万里